こんにちは。ポップジャパンの石川です。
現在ポップジャパンでは「高級のぼり」と名付けて、のぼり業界でも類を見ない、恐らく人類史上で最も高級な「のぼり旗」を販売しております。
高級なお店の前で撮影してみました。
ご覧いただけますでしょうか?
生地は最高級の京友禅を使用し、そしてポールの部分には繊細で豪華な螺鈿細工(らでんざいく)をあしらった漆塗りの逸品を使用しています。
その販売価格は、なんと300万円!
ちょっとした自動車であれば2台は買えてしまいそうな、強気のお値段設定ですが、なるほど!こうして実物を目の前にすると、納得の高級感というか、触れることも躊躇われる(ためらわれる)ような凛とした存在感に圧倒されます。
実際に扱うときには手袋の着用が必須。こんなのぼりは見たことがありません。
こちらの「高級のぼり」、ポール部分の製作にあたっては、漆職人であり伝統工芸士でもある蓮池うるし工芸 (はすいけうるしこうげい) 有限会社の蓮池稔(はすいけみのる)さんにお願いし、最高と言う言葉では足りないほどの逸品を仕上げていただきました。
そんな蓮池さんが、この度、第23回全国伝統的工芸品仏壇仏具展の伝統意匠部門で、最高位の経済産業大臣賞を受賞されました。
つまり、これは蓮池さんの技術が日本一と認められたということであり、ポップジャパンの高級のぼりは日本一の職人の手によって製作されているということ。私たちとしても大変誇らしいことです。
そしてのぼりラボは考えました。
仏壇や漆塗りの世界について、漠然としたイメージはあってもその世界の深さには触れる機会は少ないものです。
お祝いの言葉と共に、日本一の職人である蓮池さんから「物作りの精神」に込められた伝統と、人の温もり「本当に大切なこと」について聞きました。
仏壇は7人の職人によって作られる日本文化の総合芸術!
この度は、「経済産業大臣賞」の受賞、おめでとうございます。ポップジャパンとしても、「高級のぼり」のポールの作成をお願いしたご縁もあって、大変誇らしい気持ちです。
ありがとうございます。
今回は、蓮池さんの本業とも言える仏壇についても深くお話を聞くことができればと考えていますが、そもそも『仏壇つくりの道』に入られたきっかけは何だったのでしょうか?
もともと、私の父親が木地師(きじし)と宮殿師(くうでんし)をしていました。そして私の母が、小売のお店をしていたのですが、仏壇の金が剥げたり傷がついたりしたときに、木地師や宮殿師では直すことができないんですね。そこで、私が塗師(ぬし)になるようにと、父に言われて、この道に入ることになりました。それが、22歳か23歳くらいのことですね。
ごめんなさい。いきなり知らない言葉が出てきてしまいました。木地師や宮殿師、そして塗師というのは、つまり、仏壇を作る職人のことでしょうか?
そうですね。詳しく説明しましょう。仏壇を作るには「七匠(ななしょう)」と言って、それぞれ彫刻をしたり木地(きじ)を作ったり、それから絵を描いたりする職人や、金具を打つ職人がいます。そして、私のように「塗り」や金箔を貼る職人がいます。合計7つの部門があり、その皆が集まることで、一つのお仏壇ができるのです。
仏壇は7人の職人(匠)それぞれの担当部門があるということですね。
彫刻だけでも3つの部門があります。それぞれ狭間師(さまし)、宮殿師(くうでんし)、須弥壇師(しゅみだんし)といいます。部門によって彫刻する刃物も違います。そして絵を描く仕事が蒔絵師(まきえし)、蝶番(ちょうつがい)とか引き出しの引き手などの金物は錺金具師(かざりかなぐし)が専門となります。仏壇の大きな枠組みを作るのが木地師(きじし)ですね。
ちょっと図に纏めたものがこちらですね。
7人の職人によって仏壇は作られる。
七匠の中で私は塗師(ぬし)と言って、漆を塗ったり金箔を貼っています。それから、仏壇のデザインを考えることも塗師の仕事ですね。
仏壇のデザインとは凄そうですね。想像できない世界です。
大体の場合、塗師が自分の作りたい仏壇を考えて、デザインを頭の中に浮かべます。そして、その内容を他の職人へ発注しています。「こういうものを作って下さい」と指示を出すんです。
いわゆる「外注先」として、専門業者に発注するイメージですね。
そうして出来たものを、全部集めて下地をして漆を塗り、金箔を貼って、組み立てて仕上げることが塗師の仕事です。野球に例えるなら監督みたいなポジションですね。
それぞれのプロフェッショナルを束ね、「デザインを考えた仏壇を完成させる」という目標への舵取りをする立場ですね。塗師になられてからは、ずっとこの道で活躍されていたのでしょうか?
昔から、沢山のお仏壇を買っていただいていたのは見ていましたからね。アフターサービスの必要性も大きく、ずっと塗師の仕事をさせてもらっています。
数十年前に作られたという仏壇も、メンテナンスされて新品同様の輝きを取り戻していました。
9000年の歴史が証拠!漆は人類史上最強の塗料だった
ポップジャパンも「高級のぼり」では、漆(うるし)を用いたポールを製作していただきましたが、漆の魅力や特徴を教えていただけますか?
漆には優れた特徴がいくつもあります。塗料として使われることは知られていると思いますが、金箔を貼るときの接着剤としても漆が使われていることはご存知でしたか?
えっ?漆って接着剤にもなるんですか?知りませんでした。「塗料」というイメージばっかりで。
接着剤として漆の優れている点は、時間が経つほど強くなるという特性です。
普通だと、時間が経つほど劣化して接着の力が弱くなりますが、漆は逆なのですか?
車の塗装や建物の塗装などで使われている石油製の化学塗料は、10年も経てば力が弱くなってきますが、漆は10年、15年と時間が経過するうちに、だんだん木を固めてくことで、力が強くなるんです。そこからさらに20年、30年、40年先へと、固めた力を継続するんです。
時間が経つほど強くなる接着剤なんて夢のようですね。またそれが古くから伝統的に利用されてきていることにも、先人の知恵というか、不思議なものを感じます。
そうですね。なにしろ、9000年前に使われた漆が現存しているくらいですから。
9000年!縄文時代じゃないですか!?歴史のケタが違います!
画像は鳥浜貝塚から出土品した漆塗りの櫛(くし)。6000年前のものとされている。
そこから現代に至る歴史の中で、色々な塗料が発明されてきました。しかし、いくら人間が「いい塗料を作ろう」と研究して頑張っても、9000年前から使われている漆という塗料に敵うものは未だにありません。
9000年間、最強の座を譲らない漆の凄さは、まさに歴史が証明しているのですね。
折角なので、漆の凄さをもっとアピールしてもいいですか?
どんどんお願いします(笑)
実は、漆にはウルシオールという成分があって、抗菌作用や殺菌性もあることが証明されています。例えばお椀に漆を塗ると、大腸菌だとか空気中の細菌やMRSAなんてものがお椀に着いたとしても24時間もすれば綺麗に殺菌されてしまうんです。なので特別なことをしなくても、食中りや食中毒を防げるような物作りがしてあるんです。そこまで昔の人は考えてお椀など食器類を作っていたんですね。
成分名がもう「”ウルシ”オール」なんですね。
そういった特性がありますので、登山家の三浦裕一郎さんはエベレストにアタックするときでも必ず木製で漆塗りのお椀を持って行っていると聞きました。満足に食器を洗うことも困難な状況で、優れた抗菌作用や殺菌性をもつ漆の特性が有効であると判断されたのでしょうね。
漆のお椀ってエベレストまで行ってるんですね!
未来の世代に伝えたい!「物作りの精神」に宿る人の温もりについて
すでに僕の中で「漆って実は、別の宇宙の超高度文明から来たものなんじゃないか!?」的なイメージが沸き起こっているのですが、現在、蓮池さんは小学校や中学校で、漆の凄さを伝えたり、金箔を使った体験学習をされているそうですね。
小学校や中学校、高校、それに大学でも話をさせてもらっています。この前は広島大学の学生がいらっしゃったのでお話をさせてもらいました。
お話の中では、どのようなことを伝えているのですか?
漆は優れた素材ですが、ご存知のように漆はかぶれます。それはもう本当に痒くて、熱も出ますし、最後は倒れそうになるほどです。そういった苦労もしっかり伝える必要があると思っています。表面的な「綺麗さ」や「使いやすさ」も大切ですが、何より大切なことは「作り手の心の温もり」を伝えることだと考えています。
「作り手の心の温もり」とは、例えばどういったものなのでしょうか?
木製のお椀一つからも感じられます。お椀の断面を見てみると、口をつける箇所は薄く、下に向かうにつれ段々と断面が厚くなってますよね。
この形は、熱いものを注いだときでも手が当たるところは「温かいな」と感じるくらい程度の熱が伝わるようにする調整なんです。熱いうちにすぐお椀を手に持って飲むことができるということですね。
なるほど。確かに、プラスチックのお椀だと触れないくらい熱くて、いくらか冷まさないといけなかったという経験はあります。
ちょっとしたことですが、「少しでも暖かく美味しいお味噌汁を飲んでいただこう」という、ただその一心で何年も研究してきた技術なんです。その心を子供たちに伝えることができたら、物作りの良さも見直されるし「私は心の温もりがあるものが欲しいから、長く大切に使って、やがては自分にとっての宝物になるようなものが欲しい」と考える人も育つのではないかと思います。
ものごとの表面だけで判断していると、物も人も大切にしなくなるのかも知れませんね。
もちろん、表面のことだって大事なことです。色や形、値段だって、物の価値を判断する材料でしょう。しかし、もっと大事なことは、裏側に隠れている「作る人の苦労や工夫」「作る人の想い」「歴史の深さ」「心の温もり」だと私は思っています。そこが見直されてきたら、「物を大切にする」とか「大事に使う」といった心が育まれることでしょう。そしたら「ものを大切にしなければいけない」、そして「人も大切にしなければいけない」といった時代になっていくと思います。
屋外広告も効果を発揮!今の時代だから想う、人と人との「縁(えん)」の尊さ
蓮池さんにはポップジャパンの「高級のぼり」のポールを製作していただき、今回、経済産業大臣賞受賞のPRする幕を、ポップジャパンで作成いたしました。反響はありましたでしょうか?
ちょっと思い切って作成をお願いしたら、立派なものを作っていただきました。ありがとうございます。皆さん「よく見えていいですね」「いいのが出来ましたね」と言ってくださるんですよ。作って良かったと思っています。
幕の効果がしっかり発揮されているようで、私たちも一安心です。お客様は増えましたか?
そうですね。やっぱり、見に来られる方は増えました。意外だったのは、幕や新聞の記事をご覧になった方の中から「見ましたよ。蓮池さんに仏壇を面倒見ていただいて本当に良かった」と言ってくださる方が、かなりいらっしゃったことですね。連絡もしてくださるんです。あれはビックリしました(笑)
受賞の効果、そしてそのPRの効果によって、以前に仏壇をお買い上げくださった方と再びつながるのですね。人の縁(円)の結びつきを演出できるという屋外広告の力が発揮されたということでしょうね。
そう思います。それに日本一になれたことで、小学校で「私は今まで頑張ってきて、全国で4番まできています」とか「2番まで来ています」と言っていましたが、これからは自信を持って「1番になったから、みんなもどんな苦労があっても、頑張って生きなさい」と伝えられます。
この「のぼりラボ」も蓮池さんの想いを伝える手助けになれるように、しっかりと今日のお話を伝えていきたいと思います。今日は興味深いお話をいただき、本当にありがとうございました。
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全国伝統的工芸品仏壇仏具展の伝統意匠部門で、最高位の経済産業大臣賞を受賞された蓮池さんですが、「これで終わりではない」と、さらなる技術の追求と、漆の世界、仏壇の世界の探求を続けられています。
しかし同時に、職人の後継者不足や簡易的な仏壇の需要が伸びている現状から、伝統的な仏壇と、そこに関わる技術がこの先無くなってしまうのではないかと危惧されていました。
そんな時代の流れを少しでも押し留めるために、そして「本当にいいものとは何か」ということを伝えるために、学校をまわり「これからの世代」に体験実習の場を提供されています。
漆には「時間が経てば経つほど強くなる」という特性があります。
今持てはやされている即物的なものが、次々と使い捨てられていく一方で、古くからその輝きを失わない伝統的な技法がもう一度見直されるとき、受け継がれてきた蓮池さんの教えが活きてくるのではないでしょうか。
世の中いつどう変わっていくかなんて分かりません。だから頑張っていればどこかでチャンスがあると信じて、その時のために「物作りに宿る人の温もり」の話を伝えていくつもりです。
屋外広告である店頭幕が、また再び人の縁を取り持つきっかけとなったように、のぼりラボも、「本当にいいもの」を紹介することで、新たなつながりを生み出していきたいと思いました。
【取材協力】
蓮池うるし工芸有限会社 伝統工芸士 蓮池稔さん
広島県東広島市西条町西条東1054-1
TEL.(082)422-2876 [FAX 同番号]
ご協力いただき、ありがとうございました。