シリーズ|広告のある風景 まちなみと広告のかたち

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屋外広告の在り方について調査・研究を重ねる「のぼりラボ」。
この度、学術的な観点からのアプローチを模索する中で、なんと、「広島大学 教育学研究科 造形芸術教育学講座(デザイン) 准教授」として活躍しておられる「八木 健太郎(やぎ けんたろう) 博士(学術)」にご寄稿いただいています!

まちなみの景観や、風景における文脈を考える中で、時としてノイズとなってしまう「屋外広告」はどのように活かされるべきなのか。
屋外広告法に代表される法律やルール、色彩や屋外広告とまちなみの歴史など様々な研究から紡がれる「屋外広告の在り方」とは。
今回は、その第三弾です!

    シリーズ|広告のある風景
  1. Vol.01 目立つよりも、愛されたい。
  2. Vol.02 街のイメージと広告

歴史のある街と広告物

歴史のあるまちなみの広告物
歴史のあるまちなみの広告物とは?

前回は、広告物を規制する立場からのお話しや、広告を出す側にも求められる姿勢について取り上げましたが、今回は歴史のあるまちなみと広告物について考えてみたいと思います。歴史のあるまちなみにおいては、これまでに重ねて触れてきたような、文脈に沿った広告物のかたちをより明確に見ることができるからです。歴史や伝統のある組織や施設が厳格なドレスコードを持っているように、歴史や伝統のある街であればあるほど、屋外広告物にもその街で期待される振る舞いというものがあります。

歴史のある街

一般的に歴史のあるまちなみと言うと、たとえば冒頭の写真の鞆の浦であったり、先日からのぼりラボでも取り上げられている竹原や御手洗などのように、古くからの宿場町であったり、潮待ちの港であったりといった、純日本的なまちなみを想像する人が多いのではないでしょうか。

このような街にふさわしい、効果的な広告物というのはどのようなものでしょう?

大きさはどうでしょう?古くからの日本のまちなみは、平屋建てか二階建て、せいぜい三階建程度です。遠くからもアピールできるような、高くて巨大な看板や広告塔を作ったほうが目立って良いでしょうか?

色や素材はどうでしょうか?鞆の浦の写真にある木の看板は、すっかり字が読みにくくなってしまっています。のれんも穏やかな紫色です。もっと遠くからでも目立つようにしたほうが良いのではないでしょうか?

なぜそうしないのでしょうか?

それは、この広告物を出している店舗と、その潜在的な顧客である鞆の浦への訪問者の関係に依っているといえます。この地域では、大都市郊外の国道沿いのファミリーレストランやガソリンスタンド、コンビニエンスストアのように、店の名前や業態が遠くからひと目で分かることはそれほど重要ではありません。この写真にある細い路地は、時速50キロや60キロのスピードで走り抜けたりはしないからです。制限速度は時速30キロと表示されていますが、実際にはこの路地を時速30キロで走り抜けるのも、かなり勇気がいることでしょう。基本的に、この街を訪れる人々は、徒歩で、のんびり会話などしながら散歩しながら個々の店舗を覗いていきます。

したがって、速いスピードで走る車から見てもらうための広告物と同じようにアピールする必要はまったくないのです。

かき氷
かき氷を売っていることを知らせる広告物

もちろん、たとえばこのかき氷の例のように、遠くから見つけてもらうことを目的としている、比較的派手といえる色彩のものもあります。しかし、吊るされているのは軒下で、街路を歩く人の目の高さですし、そのサイズもとても小さなものです。ただ、その色彩とともに、風で揺れ動くことによって、より目につきやすい効果が生まれています。

いろいろな歴史のかたち

それでは、歴史のあるまちなみでは、地味で、目立たない、素朴な素材の広告物でなければふさわしいとは言えないのでしょうか?
実は歴史のあるまちなみと言っても、その歴史のあり方はさまざまです。もちろん、さきほど挙げたようないかにも古き良き日本的なまちなみをイメージする人が多いことは確かですが、そればかりではありません。たとえば、神戸や横浜、長崎のような港町では、百年以上前から、西洋人や華僑などの外国人が多く生活する外国人居留地や中華街が形成されてきました。

このような洋風の建物が並ぶ街や中華街もまた、れっきとした歴史のあるまちなみと言えます。実際、神戸や長崎の山手にある洋風建築が立ち並ぶ地区は、国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定されています。

そして、こうした異なる文化のもとで歴史を積み重ねてきた街では、当然のことながら、いわゆる伝統的な日本のまちなみとはずいぶん異なる風景が作り出されています。

タペストリー形式の屋外広告物
建物と一体となっているタペストリー形式の屋外広告物

たとえば、横浜や神戸の海岸近くの洋風建築が立ち並ぶ地域では、以前に比べるとずいぶん数が少なくなったとは言え、石造の重厚な建物が立ち並ぶまちなみが今でも残されています。こうした地区の施設が掲示する屋外広告物は、比較的短期間に入れ替わるものも含めて、建築物や街路灯などと一体化させた、スマートで上品な形式で掲示されているものが多く見られます。日本的にのぼりを立てる形式よりは、建物や街路灯から吊り下げるタペストリー形式が圧倒的に多数を占めているのは、やはり西洋的な建物の特性にあわせた広告物の掲示の作法があるからです。

それでは、中華街はどうでしょうか?多くの人は、道頓堀川沿いの風景ともある種共通するような、多数の広告物が掲示された、派手な色彩をもった街という印象を持っていることでしょう。実際に、中華街の広告にはどのようなものが多いのでしょうか?

改めて見に行って自分でも驚いたのですが、行く前の感覚としては、のぼり形式の広告物がかなり多いのではないかと思っていました。ところが、意外なことに、壁面の看板や突き出し看板、入口のオーニングテントを使用した広告物が多数見られます。内照式看板や電飾看板も多く、夜間もずいぶん明るく賑わいを感じさせるまちなみとなっています。ところが、短期的に設置するタイプの広告物については、のぼりの数は非常に少なく、写真を多用した置看板式の広告物や、のぼりより大きなサイズの懸垂幕をよく見かけます。中華街の基準で考えると、のぼりでは広告物としてのサイズが小さ過ぎるのでしょう。風景としての良し悪しはともかく、サイズが大きく、具体的な商品写真を前面に押し出した派手な広告物の方が、より中華街らしいということは言えそうです。

横浜中華街の屋外広告
横浜中華街の屋外広告の例

実際に、中華街でのぼりを使っていたのが現代の日本的なものの象徴とも言える百均ショップであったことはたいへん興味深いところです。のぼりというのは非常に日本的な広告物の形であるといえるのかもしれません。

屋外広告物の選択肢

これまで紹介してきたように、屋外広告物には、のぼり以外にもさまざまな選択肢があり得ます。のぼりと同じように、短期的に入れ替えが行われるファブリック系の素材を使用した広告物にも、懸垂幕やタペストリーなど、多くの形式があります。

そしてもちろん、のぼりがふさわしい場面も存在します。

屋外に広告物を掲示する際には、広告物がどのような文脈に置かれるのか?それによってどのような広告物のかたちや掲示方法がふさわしいのか?
まずはそこから考えるようにしていただければと思います。

広告を掲示する方法にも、次々と新しい選択肢が生まれています。上品なものもあれば、目立つことだけを考えた品位のかけらも感じられないものもあります。ネオンサインのように失われていく形式がある一方で、デジタルサイネージも一般化してきました。その他にも、新しい技術や素材を採用した選択肢も増えています。

広告物が出されるのはどのような地域なのでしょうか?どのような客層をターゲットにしているのでしょうか?どのような商品やサービスを扱っているのでしょうか?

それによって、ふさわしい広告物のかたちは変わってくるはずです。

そのうえで、適切な広告物のサイズはどれくらいなのか?どのような色彩が良いのか?どれくらいの数の広告物を掲示すればよいのか?といった項目についても、慎重に考えて判断していただきたいと思います。

今の時代の広告物は、目障りであろうととにかく目立って印象に残りさえすればそれでよいというわけではありません。人は素晴らしい広告よりも、腹立たしい広告の方を(悪い印象とともに)覚えているものです。そのことを踏まえて、伝えたい商品やサービスにふさわしい広告物のデザインを検討していただきたいと思います。

そうすることによって、広告物の印象や効果は大きく変わるはずです。風景の一員として、地域社会に歓迎される屋外広告物が増えていくことを願っています。

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筆者

八木健太郎

八木 健太郎(やぎ けんたろう) 博士(学術)
広島大学 教育学研究科 造形芸術教育学講座(デザイン) 准教授
神戸大学で建築を学んだ後、ワシントン大学とローマで建築とデザイン、アートの研究。
西日本工業大学デザイン学部准教授を経て、2015年に広島大学に着任し、デザイン領域を担当。
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  2. Vol.02 街のイメージと広告

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