シリーズ|広告のある風景 街のイメージと広告

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屋外広告の在り方について調査・研究を重ねる「のぼりラボ」。
この度、学術的な観点からのアプローチを模索する中で、なんと、「広島大学 教育学研究科 造形芸術教育学講座(デザイン) 准教授」として活躍しておられる「八木 健太郎(やぎ けんたろう) 博士(学術)」にご寄稿いただいています!

まちなみの景観や、風景における文脈を考える中で、時としてノイズとなってしまう「屋外広告」はどのように活かされるべきなのか。
屋外広告法に代表される法律やルール、色彩や屋外広告とまちなみの歴史など様々な研究から紡がれる「屋外広告の在り方」とは。
今回は、その第二弾です!

    シリーズ|広告のある風景
  1. Vol.01 目立つよりも、愛されたい。

屋外広告物のルールを作る視点から

東京ミッドタウン
街のイメージにふさわしい広告物のかたち

多くの人にとってはあまり馴染みがないルールかもしれませんが、屋外広告物法という法律があり、また自治体によっては独自の屋外広告物条例を制定して、さまざまな屋外広告物を規制しています。

自分の土地だからといって、どのような広告物でも好きなように出して良いというわけではないのです。

なぜそのようなルールが作られているのでしょうか?ルールを作る側の視点に立ってみることは、実際に屋外広告物を企画する上でも参考になるのではないかと思います。

これらのルールがある理由としては、前回も触れましたが、基本的に屋外広告物は多くの人にとって「必ずしもそこになくても良いもの」であるからです。たとえば、火葬場やゴミ処理場、下水処理場といった臭いが気になりそうな施設が家の近くにあって欲しくないというのは、多くの人に共通する気持ちでしょう。屋外広告もまた周囲の人々にとっては基本的に気がかりな存在であり、時に目障りともなる存在です。

街のにおいというのは、好ましい匂いであれ、好ましくない臭いであれ、その地域のイメージを左右する重要な要素ですが、目に見えるまちなみもまたその地域のイメージを大きく左右します。それは単に街のイメージやステータスに影響を及ぼすだけでなく、最終的には地価や賃借料といった経済的な評価にも現れます。そして、屋外広告物は、まちなみに対して非常に大きな影響を及ぼすものです。そのような屋外広告物に対して、周囲や地域の人々が関心を寄せるのは当然のことで、自分の土地ではないのだから口を出すなと言われても、そう簡単には納得できないでしょう。

地域の多くの人々に共通の利益を守るために、屋外広告物を掲示するためのルールが作られているわけです。

屋外広告物の種類とルールについて

屋外広告物の効果や影響は、設置される場所、形状、大きさ、色、そしてその内容によって大きく左右されます。そして実際にこれらの要素は、自治体が広告物を規制する際の指標でもあります。

独立して設置されるのぼりやポスターボードなどを除けば、多くの場合、屋外広告物にはそれが設置される土台となる建物があり、その規模や形に制約を受けます。一般的には、土台となる建物より大きな広告物というのは、あまり合理的ではなく設置することが難しく、考えにくいでしょう。本体より大きな広告を掲載したバスや電車というのも、そもそも安全上の問題がありそうです。

それでも、建物というのは非常に大きなものもありますから、前回紹介した道頓堀沿いの建物のように、建物全体が広告で覆い尽くされてしまうような状況というのは、一部の例外を除けば望ましくないものです。

そこで、多くの自治体では、広告物の形や大きさについてさまざまな制限を加えています。自分の所有する建物だからと言って、建物全体に広告物を出せるとは限りません。

壁全体の面積の何%までは広告物を掲示しても良いですよ、あるいは屋外広告物の種類に応じて最大の大きさは何メートル×何メートルまでですよ、といったルールを設けて、目に入ってくる風景を広告物ばかりが覆い尽くすことのないようにしているわけです。

大きさが制限されるのなら、色をできるだけ派手にすれば目立ってよいのではないか、と考える人もいるでしょう。そのため、大きさだけでなく、屋外広告物に使うことのできる色についてもルールが決められていることもあります。

色の特徴を表す要素として、色味をあらわす色相、明るさをあらわす明度、鮮やかさをあらわす彩度という三つの属性があります。

色に関するルールが設けられているところでは、多くの場合、鮮やかさの指標である彩度の制限が加えられています。これは、より一般的な言い方をすれば、あまり派手な色を使うのはやめて下さいということです。彩度を低くすればするほど白黒に近づき、派手さが抑制されます。あまりに低く制限してしまうと白黒の世界になってしまいますから、そこまで厳しい制約が加えられることはありませんが、極端に派手な色を使うことはできないということです。

また、地域によっては、屋外広告物に使える色相を制限しているところもあります。

例えば、白壁のまちなみであれば白と黒の印象が強いでしょうし、煉瓦の建物が集まる地区などでは赤から茶色系の印象が強くなるでしょう。

最近はだんだんと失われてきているかもしれませんが、本来はその地域の風景がもっている特徴的なの色合いというものがあるもので、色相を制限するというのは、そうした地域独特の色に合わせて下さい、ということです。屋外広告物に限らず、建物等に使うことのできる色のルールが決められている地域もあるのはそういった理由からです。

そんなことをしたら目立たなくて広告の意味がないと思われるかもしれません。しかし、目立つかどうかというのは相対的なものでもありますから、その地域の広告物がすべて制約されるルールの中では、相対的な広告効果はそれほど変わらないとも言えるでしょう。

ふさわしい広告のかたち

屋外広告物は、のぼりのほか、建物の屋上に設置される屋上広告塔、壁面広告、突き出し広告、懸垂幕、ポスターボード(ビルボード)、柱広告、ラッピング車両など、設置される場所や形態、素材にはさまざまなものがあります。そして、それぞれ掲示するにふさわしい場所というものがあります。

たとえばイベントの告知などを目的として、短期的に入れ替わるタイプの屋外広告物について考えてみることにします。

最も手軽で代表的なものはのぼりでしょう。商店街や、郊外のロードサイドなどでは、物販店のセールの告知、新しい商品やサービスのキャンペーン、飲食店の新メニューの紹介など、日常的に頻繁に目にします。

それに対して、駅ビルや百貨店などが展開するイベントなどの告知用の屋外広告物としては、建物の壁面に懸垂幕が設置されることが多くなります。もちろん、施設の規模が大きいという理由もあります。しかし、歩行者の視点に近い部分に広告物が求められる場合でも、のぼりではなく建物や街路灯等と一体的に設置される、冒頭の写真のようなタペストリー形式で掲示されることが多いでしょう。一般的には価格帯の高い商品やサービスを扱う店舗等でのぼりを掲示することは稀であり、扱っている商品やサービスによって、広告物の選択肢も変わってくるものです。

色についても、ディスカウントストアやパチンコ店などが彩度の高く派手な色彩の広告物を掲示するのに対して、百貨店やセレクトショップなどは比較的彩度の低い落ち着いた色彩の広告物を出すことが多いわけですが、これもまた色の持つイメージというものがあるからです。

わたしたちがTPOにあわせて着ていく衣服を選ぶのと同様に、広告物についても、掲示する場所や地域のイメージにあわせた選択をするということは、商品やサービスの価値を守る上でも重要なことです。と同時に、掲示する場所や地域のイメージを守る上でも重要なことでもあるのです。

広告を作る側に求められる姿勢

そのようなわけで、屋外広告物にはさまざまなルールがあるのですが、決められたルールに対して広告を作る側にもいろいろな姿勢が見られるようになります。

例えば竹原などのように、あまりルールを意識しなくても、自然と広告物に対する価値観が共有されている地域もあるでしょう。一方で、ルールが許容する範囲内で、最大限に派手で目立つものを作ることだけを考えて広告物を作る例も少なくありません。つまり、ルール違反だと言われないことが重要であって、街にふさわしいものを作ろうという姿勢はない場合です。

そうなると、ルールを作る側にとってはさらにルールを厳しくしようという動機づけにしかなりません。地域の消費者にも広告主に対する否定的な感情を生みかねません。さらには街のイメージも悪化するとなれば、誰も得をしないような状況が生まれてしまいます。

もちろん、前回触れたとおり、派手な広告物が氾濫していることが地域の魅力につながっているような場所も、少ないながらあることは確かです。

しかし、少なくとも街のイメージに相応しい屋外広告物のデザインを考えることが、最終的には広告主のみなさんの利益につながるのだ、という認識が共有されるようになって欲しいと思います。

次回はまちなみと広告物の関係という視点から、特に歴史のある街における広告のありかたについて、お話したいと思います。

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筆者

八木健太郎

八木 健太郎(やぎ けんたろう) 博士(学術)
広島大学 教育学研究科 造形芸術教育学講座(デザイン) 准教授
神戸大学で建築を学んだ後、ワシントン大学とローマで建築とデザイン、アートの研究。
西日本工業大学デザイン学部准教授を経て、2015年に広島大学に着任し、デザイン領域を担当。
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