シリーズ「屋外広告は風景だ」重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?広島県呉市御手洗地区-【第2回】

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御手洗の海沿い

御手洗町並み保存地区は、瀬戸内海に浮かぶ「大崎下島」という島にあります。
のぼりラボ取材チームの拠点は広島市内にあり、御手洗までの移動時間は、およそ2時間かかりました。
2時間の移動時間とは、例えて言うと、広島駅から新幹線で、京都まで行くことができる時間。博多までだと往復できてしまいます。

「とびしま海道」と呼ばれる、島々を結ぶ橋と道。
その中にある4つの橋を渡った先に、御手洗はあります。
この町並み保存地区が、観光地として今後より発展していくためには、この距離と時間からなる、言わば「アクセスの壁」を突破する必要があります。

しかし、そんなアクセス面で不利な条件を、逆に「不便さえも魅力の一部」と思えるような付加価値として、「御手洗の満足度」へ結び付けようと、精力的に活動されている方がいらっしゃいます。
経営者であり、町起こしの若きリーダーとして活動されている「井上明さん」。
井上さんは、地元だけでなく、全国の雑誌やWEBサイトに取り上げられる人気店「船宿Cafe若長(わかちょう)」を経営されています、

今回は、第二回の取材先として、「船宿Cafe若長(わかちょう)」を訪問。
観光地・御手洗の付加価値づくりについて、詳しくお話を聞くことができました。

    御手洗町並み保存地区の取材記事1回目は、こちらです。
  1. 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県呉市御手洗地区-【第1回】

風景に沿った屋外広告の好例。
そして、引き込まれた先に広がる贅沢空間がスゴイ。

ここで二枚の写真を比較します。どちらも、船宿Cafe若長の写真です。

若長_開店前

こちらは開店前の様子。長い歴史が感じられる建物です。
しかし、飾り気の無い、すべてを閉ざした佇まいは、言ってみれば「密閉された箱」のようにも思えます。

若長_開店後

そして、こちらは開店準備を終えた様子です。
二枚の写真を比べるとまさに使用前・使用後。
開店準備後では、色鮮やかな店頭幕が目を惹き、建物とのバランスを取りながら、店舗の目印として屋外広告の役割を果たしています。
開け放たれた扉や窓、小物をディスプレイした演出も素敵です。
メニューを紹介する看板も、落ち着きと賑わいを両立させて、カフェ「若長」がどのようなお店なのか、外向きに分かりやすく紹介する屋外広告となっていることが、よく分かります。

井上さん

御手洗町並み保存地区は、瀬戸内海を望む、「海沿いの重要伝統的建造物群保存地区」という特徴があります。
今では、御手洗の魅力を語る上で、欠かせない場所となっている「船宿Cafe若長」は、瀬戸内海を一望できる立地に、5年前オープンされました。
利用されている建物自体は、呉市の観光協会から賃借されているそうなのですが、「約200年前の江戸時代に建てられたもの」と言うから驚きです。
江戸時代から約200年の間、潮風を浴びながら時を重ねてきた建物ですが、まだまだ床も柱もしっかりとしていて、歴史の重みを感じると同時に、どこかホッとする安心感がありました。

「船宿とは船問屋を意味しています。停泊する間に、水や食料を工面する問屋の役割ですね。そして『若長(わかちょう)』という名前は屋号です。御手洗の町は屋号で場所を特定していた時代があります。なので、この歴史ある建物を利用することで、御手洗の歴史・海・特産物が一つになるストーリーが作れるだろうと確信しました」

若長_1階

店内に入ると1階はカフェスペースでありながら、ギャラリースペースも兼ねています。
味わい深い急須や置物が並び、店内の雰囲気を演出するアクセントになっています。

若長_階段

現代の建物とはおもむきが違う、建築当時の狭くて急な階段を登った先は、井上さんが特にお勧めするカフェスペース。
瀬戸内海のパノラマ風景が、目の前いっぱいに広がります。
穏やかな海のきらめきと、浮かぶ島々のコントラストを伝統建築の空間から眺める贅沢さは、まさに御手洗ならではのインパクト。
「来てよかった」と想い、そして「大切な人と一緒にまた来たい」へとつながる、感動と感嘆がありました。
ちなみに、船宿Cafe若長の定番は、地元のかんきつ類などを使う創作スイーツ。
ランチ営業もされて、土曜日・日曜日・祝日の11時から17時までの営業となっています。
平日の営業はされていないのですが、今では週末のたびに訪れるファンも獲得されていて、多い時は1日で200人の来客になるそうです。

井上さん

「混雑している時は、常連さんが気をつかって退席してくれます。長居をしたくなる気持ちもわかりますが(笑)、一人でも多くの人が風景とカフェ使いを楽しむ場になればいいですね」と笑う井上さん。

車で訪れる外国からの観光客も、毎週のように見かけるようになったと、井上さんは話します。
前回取材に伺った写真家のトムさんが、英語を用いた海外向けの情報発信もしていらっしゃるので、その効果が出ているのかも知れません。

    前回の取材記事
  1. シリーズ「屋外広告は風景だ」重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?広島県呉市御手洗地区-【第1回】

屋外広告のルールづくりを自分たちで。新しい可能性も取り入れたい。

井上さん

現在、広島県内の町並み保存地区は竹原市と御手洗の2つだけ。
御手洗街並み保存地区を中心に活動される井上さんは、古い伝統建築物を文化財として守りながら、6つの事業所を展開する経営者としての顔もお持ちです。

「町並みに関する条例の規制に、強制力はありません。実際に、派手なのぼりや飾りをしているところもあります。ただ、私がこだわりたいのは『安っぽい観光地にはしたくない』という姿勢です。御手洗らしい歴史的な風景を、どうこれからの時代へアレンジしていくか考えています。その上で、屋外広告が果たせる役割があれば、利用していきたいですね」
と、屋外広告に対する考え方を語っていただけました。

ここでまた、二枚の写真を見比べてみましょう。

昔の御手洗

一枚は古い時代の御手洗。
写真からも多くの船がひしめき合う、港町の賑わいが伝わってきます。

今の御手洗

そして、もう一枚は取材に伺った現在の御手洗。
落ち着いた空気感と、静かな時間の流れる町並みの様子が伝わります。

栄えていた当時の写真を見ていると、かつて海上貿易で栄えた御手洗は、賑わいの風景にもあふれ、人やモノの交流に活気が満ちていることが分かります。
きっと、当時の看板やのぼり旗のような屋外広告は、町の賑わいやあふれ出す人々のエネルギーを、御手洗へ訪れた人々へメッセージとして発信し、さらなる集客へと導いていたことでしょう。

重要伝統的建造物群保存地区に指定された現在は、実際に国や自治体の条例があります。
しかし、御手洗の景観維持については、自分たちも意見を出し合い、その上で『御手洗のルール』を決めていきたいと、井上さんは意欲的です。
ただの『古い建物を守る決まり』だけでは、すでに全国区で名が知られている町並み保存地区と差別化ができません。
御手洗の特色を強く打ち出した、御手洗の歴史と景観、そして御手洗で暮らす人々に根ざしたルールが必要なのです。

御手洗の路地

「道が細く、入り組んでいる御手洗では、観光客が道に迷うことがあります。『どこに』『何がある』という情報が、十分に届いていません。案内所にはマップも置いてありますが、まだまだ分かりにくいのかも知れませんね。案内物として、これからも印刷物でいくべきか?それとも現地看板や案内板などを充実させる方がいいのか?ルールづくりの中で、積極的に計画したいと思います」

かつて、交易や船員を相手にした商売で栄えた御手洗では、その時代ごとに沿った屋外広告が展開されていたことでしょう。
そして現在でも、御手洗は新しい活気を呼び込もうと大きく動いています。

その中で、集客や案内といった役割を果たす屋外広告とは、デジタルサイネージや外国語表記の案内板など、町並み保存のルールを踏まえた上で用いられる、新しい時代の屋外広告なのかも知れません。

井上さん自身、現在はFacebookなどのSNSやWEBサイトも活用して、積極的に情報を発信されています。
特にSNSは自分の顔を見せたりなど、ファンと交流する場として、活用されています。

「御手洗にいなくても、つながっているという感覚は大切ですね。SNSやサイトに来てくれる人は、情報発信したいという欲求も強い人が多いので、クチコミ効果も起こりやすいです」

インターネット上で、御手洗の魅力を世界に発信し、訪れた観光客が実際に、触れて、体感した魅力を、今度は観光客自身から発信されるサイクルが、ここでは作られつつありました。

御手洗の歴史を知ればもっと知りたくなる。ミュージアム構想の町づくり。

もともと井上さんは広島市出身で、九州で会社勤務された後に帰省され、御手洗が属する呉市に「移住」されました。
観光ボランティア講座で御手洗を知り、自ら勉強しながら観光客のガイドをされたことが、現在のビジネスにつながっていると言います。

「ガイドして気がついたのは、御手洗には、休んだりくつろいだりする場所がないことでした。高齢の人が歩き続けるのは、疲れる、面倒という声も聞きます。『それなら、休憩できる場所を作ろう』とカフェのオープンを決めました」

御手洗は貿易船の停泊地である同時に、情報を交換する、人とモノが交わる拠点でした。
海を埋め立てた狭い場所に、さまざまな施設が立ち、間を縫うように道がはしり、そこへ多くの人を迎え入れてきた歴史があります。
町には船宿で栄えた屋敷はもちろん、劇場や裁判所まであったと言うから驚きです。

「私は移り住んだ人間ですが、御手洗には貿易で多くの人とモノを受け入れてきた伝統があります。周りの人とも距離感がちょうどいいため、移住の希望者も増えています。私も希望する人の相談窓口になり、定住するための仕掛けや魅力づくりの発信に関わっています」

井上さん

井上さんが描いているのは、町並みをミュージアムのような存在にする構想。
御手洗の歴史は深く、知れば知るほど、もっと掘り下げて知りたくなる魅力があります。
町並みを歩いて眺めるだけで終わらない、歴史と人を知り、体験できる観光地を目指しているそうです。

「私が経験したガイドのように、御手洗に住む人たちが町の歴史と深く関わり、まるで学芸員みたいになればいいなと思います。町並み保存地区の指定後も活動されている「重伝建の会」をはじめとして、住民が主役になる自治体レベルで、人がつながる成果を期待しています」

御手洗の町並み

「今の御手洗町並み保存地区は、当然無料で散策できますが、もし仮に有料になったとしても、受け入れられるくらいの付加価値と評価を、私たちのような若いビジネス感覚を取り入れることで、生み出したいですね。文化財を学び体験できる、他所にはない『ミュージアムのような町づくり』が出来たらと思います」

そのような御手洗の未来に向けて必要なことは、「住む人それぞれが、自分の役割を持つこと」だと、井上さんは考えています。
役割がなければ、移住して来ても長くは続かないのだそうです。
確かに「海が好きだから」「田舎で暮らしたいから」という動機だけで、生活を維持することはできません。
生活者として、自らの役割である「仕事」を持たなければならないのは、田舎でも都会でも変わらないこと。
むしろ、どうしても不便さを感じる機会が多い田舎で、その事実は都会以上にシビアかも知れません。

そのような現実を踏まえた上で、井上さんは「どうぞ、誰でも移住して来てください」とは言えない現状を、教えて下さいました。

「御手洗では、移住して来られる人に条件を設定しています。それは今、御手洗で求められている技術やキャリアを持っている人かどうかです。その条件に合えば、御手洗には仕事があり、すぐにでも生活がスタートできる環境があります。例えば、トムさんのように写真撮影と日本語を理解して海外へ情報発信できる人などです」

「そして、これからは調理師や建築家など、新しい御手洗の町づくりに必要な人を求めていきます。それが地域への定着と役割の実感になり、その人たちも御手洗の財産になる。時代に合わせて、町と人が成長する御手洗でありたいと願っています」

古くから歴史を積み重ねてきたものが残り、受け継がれていることは、何物にも代えがたい財産です。
かけがえの無い町並みと歴史と守りながら、同時にこれからも続いていく、時代やニーズの変化にどう応えていくか。
港町として栄えた御手洗は今、穏やかな空気の中で、新しい時代に沿った、新しい賑わいを広げるための、新しい取り組みをスタートさせていました。
御手洗という地域と共に活躍できる移住者を集め、全国に点在する重要伝統的建造物群保存地区の中でも、観光地として活きる御手洗独自のビジョンを描いています。

御手洗の新しい活気を呼び起こす。そのために屋外広告だから出来ること。

御手洗が描くビジョンの中では、屋外広告が担える役割もまた、決して小さくないはずです。観光客として、外から来る人が増えれば、それだけトラブルの増加も考えられます。
細く入り組んだ道は御手洗の魅力ですが、同時に迷ってしまう人も増えることでしょう。
そこに一つ案内板や、遠くからでも視認できる看板やのぼりがあれば、人を誘導する目印になります。さらに、そこへ外国語による案内の表記があれば、より親切で、喜ばれます。

もちろん、それらの広告物は御手洗の情景に馴染むデザインであり、佇まいでなければなりません。
先に書いたカフェ「若長」の店頭幕やディスプレイのように、建物が辿ってきた歴史を踏まえた屋外広告であれば、かつての風景を想い起こさせながら、店舗の目印としての役割を果たすことは可能です。
例えばですが、期間と場所を限定した上で、かつての活気のあった御手洗を再現するような、屋外広告を設置したら、また観光客や地域の人々から感想や意見を聞けるでしょう。
その声を反映させることで、御手洗の中で屋外広告をより有効に活かしていくことが出来そうです。

取材を終えて

今回、取材させていただいたトムさんも井上さんも、これからも続いていく御手洗の歴史を、いかに色鮮やかにしていくか、深く、真剣に考えていらっしゃいます。
そこには、御手洗の町並みを「ただ保存するだけ」ではなく、「保存しながら発展させる」という、貪欲とも言える姿勢を見ることができました。
屋外広告に関しても、一概に排除してしまうのではなく、有効だと判断したらどんどん利用していく可能性を残しています。

船宿Cafe若長で取り付けられていた店頭幕。
その、風景に沿いながら店舗への誘導効果を発揮している姿に、町並み保存地区で有効に活きる屋外広告の未来を、強く確信できた取材でした。

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