シリーズ「屋外広告は風景だ」 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県竹原市-【第三回】

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マンホール

重要伝統的建造物群保存地区や町並み保存地区などを訪ねて歩き、「風景に沿った屋外広告」を探求する取材企画。今回はその3回目です。
広島県竹原市の町並み保存地区を、取材する中から見えてきた屋外広告のあり方について、さらに現地の人たちから声を聞き、探求していきます。

    前回までの記事はこちらです。
  1. 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県竹原市-【第一回】
  2. 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県竹原市-【第二回】

石川編集長が屋外広告の可能性と真剣勝負!
第一回 竹原市町並み保存地区(広島県) その③

続いて取材させていただいたのは「江戸そば遊山」さん。
お店の場所を、正確に言うと町並み保存地区からは少し外れているとはいえ、それでも歩いて5分も掛からない程の近さです。

遊山

「江戸そば」を提供される店舗らしく、和の雰囲気が漂う外観です。
町並み保存地区からは外れた立地で、制約も少ないとは思うのですが、街全体の印象から離れない、調和を大事にされている佇まいに、そういう世界観を持つ店主の粋(いき)を感じることができます。

一歩離れているから見える、観光客にこそ知っていてもらいたい竹原のこと。

「行政の制約は、あまり感じられないかな。あくまで、今ある町並みの雰囲気を、こわさなければという意識が、浸透しているのではないでしょうか」

店主である岩山洋二さんは穏やかに話されていました。
保存地区のすぐそばでお店をされているためか、一歩外側からの見方をお持ちです。

「それよりも町並み保存地区の問題は、駐車場と思っています。うちの店にも車で乗りつけて、『駐車場はないか?』と聞く人が結構来ます。近くの駐車場を案内するんだけど、そういう人は結局、来ないですね(笑) 。最近の人は短い距離でも歩きたくないのかな。でも、町並みは歩いて散策しないと来た意味が無いと思いますが…。」

遊山店主さま
店主・岩山さま(左)・石川編集長(中)・同行ライターの平光さま(右)

「たくさん駐車できる道の駅がオープンしてから、人の流れも変わったような気はします。それでも、まだまだ、保存地区に路上駐車する人はいますね。カメラ好きの人なんて困るんじゃないかな。車が写り込んで良い絵になりませんからね。それと、やっぱり平気で町並みの中まで乗り入れられると、生活する人はもちろん、観光の人も危険ですよ。道も狭いし」

竹原市の町並み保存地区は、そこで生活している人が居るため、生活必需品である自動車も当たり前に走っています。景観が美しくても、そこは他の地域と変わらない、大事な生活道路でもあるのです。

その道に、事情をよく知らない人が平気で路上駐車をしていると、これほど迷惑な話もありません。
さらに観光客の中には、そこが生活道路だと意識せず、道の真ん中でカメラを構えている人も居ます。
普段使いの道路に利用している人たちにとっても、観光で訪れている人たちにとっても、大変危険な状態です。
観光地における自動車の問題について、改めて気づくことができました。

自動車

今回、お話をうかがった「江戸そば遊山」さん。
お蕎麦は石臼自家製粉のそば粉を、86%使用する手打ち蕎麦。これまでの経験から導き出された、絶妙の比率から生まれる味わいが好評だそうです。
店名の由来は「物見遊山」の「遊山」から。
「町並み保存地区をのんびり物見遊山したら、ちょっとひと息ついて、蕎麦をすすってほしい」という想いが込められています。

お店の外観は和風ですが、一歩店内に入ると、チェロやピアノ、リコーダーといった楽器や、レトロなラジオなど、また一風変わった雰囲気でお蕎麦をいただけるお店です。

そのどれもが店主である岩山さんが、たしなまれているものだそうです。
タイミングがあえば演奏会なども催されているとか。チェックされてみてはいかがでしょう。

遊山店内

営業時間は11時から15時頃の売切りまで。
定休日は火曜日・第1水曜日・第5月曜日です。

若き店主が描くファンと一体化する観光対策。
竹原市町並み保存地区の「これから」。

今回の取材企画、いよいよ最後になりましたが、お好み焼きの「ほり川」さんへお伺いしました。

ほり川

こちらは、お隣にある「堀川醤油醸造場」と同じ経営のお好み焼き店。
お話いただいた社長の堀川大輔さんは、醤油蔵では四代目、お好み焼き店としては二代目というお立場です。

「ほり川」さんは人気アニメ「たまゆら」の作中で、主人公たちが通うお好み焼き店「ほぼろ」のモデルになっているお店です。
そのような縁もあって、現在も積極的に、たまゆらとタイアップしたイベントを開催するなど、コンテンツの魅力を最大限に活かした取り組みをされています。

「たまゆらに登場するメニューを一緒に開発したり、ファンの人が集まる場を企画したり、もっと町並み保存地区へ来てもらえるきっかけを提供しています。たまゆらなど『作品のファン』として訪れる人は、皆さんマナーがいいですね。舞台になった景色を大切に残したい思いが、やはり強いのでしょう」

竹原市観光協会の副会長も務められるだけに、観光対策には大変前向きに取り組んでおられる印象を受けました。
例えば、お店の名物である「ほぼろ焼き」も、たまゆらをイメージし、ファンの皆さんと一体になって開発した商品だそうです。
ポテトサラダや牛スジ煮込み、ハンバーグがトッピングされた、まさにアニメ発でないとお目にかかれない驚きの一枚。
文字通り「一味違う」お好み焼きは、ファンでなくても気になりますね。
しかもこちら、「ほり川」さんの醤油蔵。
実は映画やアニメにもなった名作、「時をかける少女」でも、主要キャラクターの実家として登場しています。

「たまゆら」と「時をかける少女」。
二つの強力なコンテンツに恵まれながら、しかしそこに胡坐(あぐら)をかくワケでもなく、積極的に活用しながら、作品のファンに楽しんでもらおうとする姿勢は、堀川社長のお言葉にも強く感じられます。

「ときかけ(注:時をかける少女の略称)のリメイクは今まで何回もあり、新しい世代のファンを開拓しています。たまゆらも、作中で主人公たちは高校を卒業しましたが、次は同窓会などの企画も動いています。町並み保存地区だけでなく、竹原駅前や商店街も巻き込んだ賑わいを演出できれば、まだまだ継続できる観光対策はあると思います」

堀川社長の若い視点と感性は、竹原市町並み保存地区を飛び出した、さらにスケールの大きな未来を描いていました。

ほり川店主様
店主・堀川さま(左)・同行ライターの平光さま(中)・石川編集長(右)

醤油蔵と並ぶ建物は200年前の蔵を改装、掲示物はのれんと店名看板と案内板のみ。
アルファベットの表示は、海外からの観光客も意識されてのことでしょう。
他店と同じく建物の歴史と印象を活かした、最小限の情報・目印を伝える屋外広告です。

自慢のお好み焼きは、麺と具材を最初に混ぜ焼きしてから重ねる、「ほり川」さん独特の仕上げ方。
ソースもオリジナルで美味しさにこだわっておられます。

営業時間は11時から14時半、17時から19時半のラストオーダー。定休日は水曜日です。

「訪れる側」「迎える側」。
観光地の未来のために、屋外広告の果たすべき役割とは。

今回、「広島県竹原市の町並み保存地区の屋外広告に対する規制や取り組み」を取材しようと考えたとき、私たちは行政による厳しいルールのもと、それぞれの店主さんが工夫されているものだと思っていました。

「本当はやってみたい演出があるけど、難しい…」「店先を他とは違う装飾で差別化したいんだけど…」といった不満や苦労のお話も聞くことができるのでは。そう考えていたのです。

しかし実際は違っていました。

「規制やルールを意識したことはあまりない」という声は本当に多く聞かれました。
もちろん、強く意識されてはいなくても、国が指定した保存地区である以上、そこに「決まりごと」は存在します。
しかし、竹原市町並み保存地区の美しさを保っているものは、「決まり」ではなく町並みを残したいという「気持ち」の方が、ずっと大きかったのです。
それは、そこで生活している人々の、歴史と文化と愛着から自然と湧き出す「良心」とも言えるものでした。
単純に「のぼり旗や看板は全部ダメ」といった話ではなく、その屋外広告が「景観にふさわしいか」を大事に考えていらっしゃるのです。

竹原市町並み保存地区を実際に訪れ、歩いてみて、「本当に綺麗な町並みだな」と、素直に感じました。
しかし、その美しい町並みの中を歩いていると、通り過ぎる窓の向こうから、テレビの音や会話の声が聞こえてきます。
通り抜ける集配トラック。買い物帰りの立ち話。軒先の牛乳配達ボックス。
そこには間違いなく、普段の私と何も変わらない人々の当たり前の生活がありました。

町並み

現在、竹原市の町並み保存地区の建物において、その8割で人が暮らしているそうですが、そのことについて、あまり周知されていないように感じます。
どうしても、観光地としての一面のみが、情報として世の中に出回ってしまうのは、仕方の無いことかも知れません。
もちろん、外から人がたくさん訪れることは、メリットもたくさんあるでしょう。
しかし、安易な観光地化によって、そこで暮らしている人たちの生活を壊してしまうことは、同時に、生活によって作られた町並み保存地区の景観を壊してしまうことを意味します。

その実例として、町並み保存地区では、現在「空き家問題」について大きく取り上げられているそうです。
私たちも実際に、町並みの端々で、住む人が居なくなり、朽ちて行くだけの空き家を何件か目にしました。

空き家

対策として、新しい移住者や店舗の誘致といった取り組みもスタートしているのだとか。
やがては、そんな新しく来た人たちも町並み保存地区の生活者となり、暮らしていくことが望まれていますが、その為には「人が住む観光地」として、そこが「当たり前に暮らしていける場」となっている必要があります。
自分や家族のプライバシーも守られず、路上駐車に頭を抱えるような環境に、好んで住む人はいないからです。
古くから受け継がれる、歴史と愛着と良心の、次世代の担い手として活躍してもらうためには、「暮らしやすい観光地」を築く取り組みこそ、より重要なのだと実感しました。

これらの問題解決には、行政などの組織による生活を守る取り組みや、的確な情報発信、そして何より訪れる私たちのマナーの向上が不可欠です。
それらを踏まえると、屋外広告(掲示物)は適切な情報発信、注意喚起のツールとして大きく力を発揮できる可能性を秘めていると考えられます。
「人が暮らしていること」や「生活道路として車の往来があること」。
観光で訪れた人々が、意識することもできなかった点について、屋外広告を用いて適切にアピールし、気付いてもらうことで、危険やトラブルを回避することができるのです。

駐車場

取材を通じて、竹原市の町並み保存地区にふさわしい屋外広告とは、規制のルールに目を向けるよりも、人々に「どう受け止められるか」について考えられたものだと分かりました。
竹原市の町並み保存地区は江戸、明治、昭和と、様々な時代の建物が入り混じることで構成された景色もその特徴です。
つまり、それは特定の時代に捉われず、平成以降も続く新しい時代だって受け入れる、懐の深い町だと言うことです。
景観のバランスに沿うことができれば、屋外広告を有効に活用できる可能性は大きい。そう心から感じることができました。

また、観光地としての面ばかりクローズアップされる弊害についても、屋外掲示によって注意喚起を行うといった手段も考えられます。
生活者とともにある竹原市町並み保存地区としての特徴や、「訪れる側」「迎える側」の不利益を回避するため、コミュニケーションツールとして屋外掲示物を利用するのです。
屋外広告を効果的に利用すれば、単なる店舗のアピールだけではなく、トラブルの無い気持ちの良い時間をお互いに共有することも可能になることでしょう。

次の世代へ受け継がれる町並みと、そこで愛される屋外広告。
それはのぼり旗や店頭幕に限らず、次世代の屋外広告として期待されるデジタルサイネージ、AR、VRの技術を利用したものであっても何らおかしくありません。
竹原市町並み保存地区の魅力を、今後もより一層アピールしながらも、同時に、住民の皆様が感じている不便なことや困っていることを解決する手助けとして、屋外広告が活用できる場面はいくつも考えられます。
そして、観光で訪れる人々が安全にトラブル無く、町並みを楽しむことのための案内ツールとしても、屋外広告の担える役割は大きなものがあることでしょう。

取材を終えて

今回の取材で、「町並み保存地区は屋外広告完全シャットアウトではない」ということを知ることが出来たのは、ラボとしても大きな調査結果です。
また、私たちの想定していなかった、取材先にある「知りえなかった現実や問題」から、私たちの事業を活かした解決策について考えることもできました。
これらは恐らく、実際に現地を訪れて、人々の声を聞かなければ知ることが出来ませんでした。意味のある第一次情報と言えるのではないでしょうか。

自分の足と目と耳で調査し、情報を取りにいく試み。
のぼりラボ調査隊は、また次の取材先に向けて動き出します。

    前回までの記事はこちらです。
  1. 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県竹原市-【第一回】
  2. 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県竹原市-【第二回】
    参考リンク
  1. 安芸の小京都 きてみんさい竹原
  2. 連続テレビ小説 マッサン
  3. たまゆら

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