シリーズ「屋外広告は風景だ」 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県竹原市-【第二回】

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竹原取材

重要伝統的建造物群保存地区や町並み保存地区などを訪ねて歩き「風景に沿った屋外広告」を探求する企画。
今回は広島県竹原市の「町並み保存地区」を取材させていただきました。その2回目の記事をお届けします。

    前回の記事/次回の記事はこちらです。
  1. 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県竹原市-【第一回】
  2. 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県竹原市-【第三回】

石川編集長が屋外広告の可能性と真剣勝負!
第一回 竹原市町並み保存地区(広島県) その②

「ぎゃらりい梅谷」さんを取材した後、同じ通りに面した「竹鶴酒造」さんをお訪ねしました。
こちら竹鶴酒造さんは、NHKの朝ドラ「マッサン」では、主人公のモデルとなった竹鶴政孝の生家ということもあり、実際にロケが行われて、その店構えなどが数々の重要なシーンで使われていました。
実際にドラマを通じて竹原の街並みを知ったという方も、多いのではないでしょうか?

竹鶴酒造

竹鶴酒造さんは創業280年を超え、純米酒の伝統を守る姿勢と味わいで、全国にファンを持つ老舗です。
「マッサン」が放送されていた期間は、2014年9月から2015年3月。
取材にお伺いした2016年7月からは、放送終了からまだ1年半程度しか経っていませんので、今でもまだ様々なシーンを記憶されている方は多いと思われます。
何しろ人気を博したドラマのロケ地です。これは、さぞ町並み保存地区のシンボルとして、観光客も多く訪れているはず、と取材前に私たちは思っていたのですが…

町並み保存地区からの問題提起。生活の場が観光地になるという意味を知ってほしい。

実際に訪れてみると、これが何とも落ち着いた…と言うか、静かすぎるような気さえします。確かに取材した日が平日でしたが、これはやや肩透かしと言うか、不思議な感じです。
見ると玄関には貼り紙が。そこには「見学はできません」と書いてありました。
「さぞ観光で賑わっていることだろう」と想像していた私たちの頭上には、大きく「?マーク」が浮びました。

今回、取材させていただいた時期(7月)は酒づくりのシーズンオフというタイミング。
幸運にも社長でいらっしゃる竹鶴敏夫さんに、お話をお伺いすることができました。
見た目にもお若い社長の竹鶴敏夫さんは、竹鶴本家14代当主であり竹原市観光協会の理事も務められています。

インタビューがスタートして早速、竹鶴社長に先ほどの疑問を投げかけてみました。

「竹鶴酒造さんと言えば、竹原市町並み保存地区のシンボル的存在。ドラマでも取り上げられ、話題になっている筈なのに、人がいないのはなぜでしょう?」

すると、その答えは意外な言葉で返ってきました。

「観光とは誰のためにあるか、分かりますか ?」

思わぬ問いかけ。
私たちが返答に詰まっていると、竹鶴社長はさらに続けられます。

「『観光に来てくれる人のため』『地域が潤うため』、普通はそう思われることでしょう。しかしこの保存地区では事情が違います。観光は『生活者である自分たちのため』なのです。」

「町並み保存地区には、そこに生活している人たちが居る」ということ。
竹鶴社長に言われるまで、これは私たちも意識していないことでした。
竹原市の町並み保存地区には、今も自宅として多くの人が住み、暮らし、日々の生活をしていらっしゃいます。
これはテーマパークや公開時間が決まっている史跡のような観光地とは大きく違う、竹原市町並み保存地区の大きな特徴。
取材を行うにあたって、その意味について考えていなかったことは、大きな反省点でした。

「これが百貨店やテーマパークなら、例えマナーの悪いお客様が居ても、営業時間だけガマンしていればいいと思います。しかし、そこに生活がある私たちには24時間365日、オンとオフの区切りがありません。観光客の人にも、私たちが、ここで暮らしている生活者であることを意識してほしいと思います。ですので、町並み保存地区を観光地としてアピールしていくのであれば、それは同時に、そこで生活する自分たちの暮らしが、守られなければならない。そう言いたいんですよ」

竹鶴社長と石川
竹鶴社長(左)は強く真剣に語られていました。

一方で「町並み保存のルールは気にしていない」と社長は言います。
意外ではありましたが、行政側にはそれほどの強制力もないし、今まで大きな問題になった記憶もないそうです。
ただ町並み保存地区の生活者として、観光客を増やすことだけでなく、快適な毎日の環境づくりにも配慮してほしいと強く、そして何度も言われていました。
考えてみればこれは当たり前のことです。
テーマパークとは違い、そこに生活者の方々がいらっしゃる観光地なら、なおさらのこと。
訪れる私たちも観光客としてのマナーについて、今一度考える必要があります。

「『マッサンで、もうかったでしょ』なんて、よく言われます。とんでもないですよ!私たちの酒は売れるからと言って大量生産はできません。作った酒はブームで売れる時期が早くなるだけ。トータルではあまり関係ないんです」

「ウチも以前は観光客の人を迎えいれるようにしていました。試飲サービスもできるようにしていたのですが、試飲の瓶を、まるで奪い合うようにしている人もいましたね。そして飲んだらすぐ帰る。しかも何も買わずに…。自分たちが生活している場に、知らない人が多く訪れるというのは、大変なことなんです」

時折、竹鶴社長は笑顔を見せながらも、私たちに真剣な口調で話を続けられました。

竹細工

竹鶴社長への取材を終え、外に出ると、玄関に置かれた素敵な竹細工が、ふと目に留まりました。
「さすが竹原、竹の細工が見事だなぁ。すごく雰囲気がいい」と思いながら眺めていると竹鶴社長から一言。

「それはね。観光客が扉のガラスにベタベタと手を触れたり、のぞき込んだりするのが嫌なので、防ぐために僕が置きました」

最後まで、価値観と先入観がひっくり返るような、本当に考えさせられる取材となりました。

竹鶴社長と石川
竹鶴社長(左)と石川編集長(右)。大変参考になるお話をいただきました。

人はルールのみで動くにあらず。竹原の景観はそこに暮らす人たちの心で守られている。

続いては、竹鶴酒造さんのある通りから路地へ入ったところにある、「カフェ青」さんをご紹介。
こちらは所有されていた古い蔵の建物をカフェに改装し、10年前にオープンされたお店だそうです。

カフェ青

屋根の造形や壁模様に長い歴史を感じますが、同時にモダンなセンスが絶妙にマッチしています。
扉は新しく付け替えられていますが、元々の木の風合いやぬくもりが伝わる演出を、店内のあちこちに取り入れられていて、落ち着いてくつろぐことが出来る空間となっています。

オーナーの妙見さんからお話を聞く中で
「町並み保存のルールは、古く懐かしい感じが好きな人が集まっているから、自然に守られているのでは」
とおっしゃられていたのが印象的でした。
実は妙見さんも保存地区に暮らす生活者のお一人。
景観を守る意識は、その土地で日々暮らしていく中から自然と生まれ、誰に言われずとも、知らず知らずのうちに、生活の一部となっているモノなのかも知れません。

妙見さんが「和」の世界を表現する書、そして「洋」であるカフェメニュー。
ギャラリーと飲食を一つにした不思議な空間は、観光だけでなく地元の人も多く訪れ、親しまれているのだとか。
妙見さんの作品づくりのモチーフは空や海。「カフェ青」という店名はその見事な青色に由来しているそうです。

「カフェ青」さんの営業時間は10時から17時。毎週火曜日が定休日ですのでご注意下さい。3台分の駐車場もあります。

カフェ青 立て看板

せんべい一筋。こだわりの店主が語る観光地にリピーターを引き込む取り組みについて。

さて、再びメインストリートに戻ってみましょう。
映画「時をかける少女」の作中で瓦が落ちてきたシーンに使われた「胡堂」のある方向へ歩いていくと、突き当たりにお店を構えていらっしゃるのが「せんべい本舗 黒田」さん。
今回の三軒目として、こちらのお店を取材させていただきました。

せんべい本舗 黒田

迎えていただいたのは三代目に当たる黒田巧さんです。
聞けば、まんじゅうと違って「せんべいの専門店」は全国にも少ないらしく、手焼きを守っているお店ともなれば3店ぐらいしか残っていないのではと黒田さんは話されます。

「朝の4時から10時間、毎日1000枚ぐらいを手焼きしています。焼いた後も乾かしながら、ショウガをハケで塗り、味をしみ込ませています。建物は150年ぐらい前の民家を借りて営業しています」

と、取材ではお答えいただきました。
そして、こちらでも竹鶴酒造さんと同じく、観光客のマナーには感心しないと苦言が。

・雨の日に傘をさしたまま店内へ入る人がいる。
・集中力を必要とする焼き上げの最中でも遠慮なく話しかけられる。

全てのお客様が悪いと言うことではなく、むしろ、マナーのいいお客様の方が多いらしいのですが、観光客だからと言って何をしてもいいという訳ではないということを、おっしゃられていました。
これはもう、生活者の方がいらっしゃる町並み保存地区に限った話ではありませんね。

こちら「せんべい本舗 黒田」さんの商品は、なんと登録商標「忠孝巌煎餅(ちゅうこういわせんべい) 」のみで営業をされておられます。
リピーターが多く、全国にファンがいるせんべいと言えば、その魅力は十分に伝わるのではないでしょうか。

保存地区にある他のお店と同じように、やはり店頭には華美なのぼりや装飾はありません。
目印と言えば「のれん」だけ。
これも消耗品だから、くたびれて使い物にならなくなってしまう、4年ごとに替えられる程度なのだとか。

「ブームや町並みだけの観光では続かない。周辺や竹原の歴史を深掘りして、地道なファンづくりが必要ではないでしょうか」
マナーが良く、目的がある観光客の増加を期待されています。

「せんべい本舗 黒田」さんの営業は8時ぐらいから18時まで。不定休です。

せんべい本舗 黒田 道具

今回の取材では、思わぬ形で「生活者の方々が居る観光地」の抱える問題を、知ることが出来ました。
そして当初、私たちが想像していた「行政などによる屋外広告に対する強い規制や縛りつけ」といったものについて、現地の人たちは「あまり気にしていない」「気にならない」という声が多かったことも驚きです。

竹原市の町並み保存地区を取材する中で、美しい景観は、そこで生まれ育った人たち、商売を営んでいる人たち、今も生活の場としている人たちの「良心」によって保たれていることに、私たちは気付きました。
ですので、景観を楽しみ文化に触れようとする観光客である私たちは、その風景を誰が守っているのかということについて、もっと真剣に考え、感謝の気持ちを抱きながら、そこに生きている人たちを、尊重する必要があるのではないでしょうか。

「風景に沿わない景観を壊す屋外広告」はもちろん規制の対象となるのでしょう。
しかし、それ以前に、景観を保つという人々の想いが安易な掲示物の侵入を防いでいるのだと取材を通して感じました。
そして、それは「景観を壊さない屋外広告」であれば、景観を保存している地区の中であっても掲示は可能であり、「景観の良さを演出する『意味のある広告』」にまでなれば、それは歓迎されるものとなり得るのではないでしょうか。
私たちが考える「風景に沿った屋外広告」の答えの一つとして、それは「人々の「良心」に沿った屋外広告」ということなのかも知れません。

さて、次回はいよいよ竹原取材の最終回。
アニメ「たまゆら」でもお馴染みのお好み焼き「ほり川」さんを取材しました。
アニメファンの人々や制作会社、配給会社を巻き込んだ観光イベントの展開についてお話を伺いました。ご期待ください!

    前回の記事/次回の記事はこちらです。
  1. 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県竹原市-【第一回】
  2. 重要伝統的建造物群保存地区を巡って探る「屋外広告のあるべき目立ち方」とは?- 広島県竹原市-【第三回】
    参考リンク
  1. 安芸の小京都 きてみんさい竹原
  2. 連続テレビ小説 マッサン
  3. たまゆら

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